琥珀 物知り博士

琥珀(こはく)Amber(アンバー) C40H64O4 数千万年前の太古の松柏類の樹脂の化石。 非晶質、樹脂光沢、透明?半透明、白?赤?黄?緑?青?黒色。 光の屈折率1.5?1.6、硬度2.0?3.0(指の爪は硬度2.5)、比重は1.04?1.1で濃い食塩水に浮かびます。 約150℃で軟化し、200?380℃で溶けます。 発火点375℃。 絹で摩擦すると負に帯電し、微粉を吸着します。 従って、琥珀を身に着けると、人体側はプラスに帯電し、周辺のマイナスイオンを引き付ける効果もあります。

琥珀は11月の誕生石で、北欧では10年目を琥珀婚としています。

ギリシャでは琥珀をエレクルトン(Elekrton)と呼び、電子の語源に、又、アラブではアンペア(ampere)と呼び電流の強さの語源になったと伝えられます。 ドイツではバーンシュタイン(bernstein、燃える石)、ペルシャではカペラ(capella)、大元のロシアではヤンターリ(yantar)と云います。

古くから飾石、お守り、薬、お香として用いられました。 透明度が高く、琥珀中に虫、木の葉、花などが封じ込まれたものは特に珍重されています。 産地は北欧バルト海沿岸地方、ウクライナ、東ドイツ、イタリアのシシリー島、中米カリブ海のドミニカ、メキシコ、南米コロンビア、東アフリカ、シベリア、ミヤンマ(ビルマ)、中国、カリマンタン、スマトラ島など、日本では岩手県の久慈地方、千葉県銚子などです。

太古に松柏科などの琥珀の木の繁茂していた地域ならばどこでも産出すると言えます。

この中でも特に有名な産地は:

北欧バルト海沿岸地方(バルト琥珀、約3?4千万年前)
中米カリブ海のドミニカ(ブルーアンバー、2?4千万年前)
メキシコ(レッドアンバーやレインボーアンバー(虹色琥珀)、2?4千万年前)
ビルマ(現ミヤンマのバーマイトBURMITE、ブルー、パープル(紫)、レッドアンバー)、8千万年?一億千万年前の白亜紀
インドネシアのスマトラ島(ブルー、パープル(紫)、レッドアンバー、2?3千万年前)。

この外産出量は少ないですが発見を見たところは、

コロンビア、カナダ、アメリカ、アラスカ、ルーマニア、ハンガリー、チェコスロバキヤ、ポーランド、ドイツ、フランス、イタリアのシシリー島(枯渇)、スイス(三畳紀、約2億年前)、ヨルダン(ジュラ紀、約1億6千万年前)、レバノン(約1億2千5百万年前)、オーストラリア(白亜紀前期、約1億1千万年前)、シベリア、サハリン、中国、インド、カリマンタン、ジャワ、ルソン島、アフリカと列挙すれば限りがありません。

日本で有名なのは岩手県の久慈地方(第三紀、約3千万年前??白亜紀後期、約8千万年前)で産出量も多く生産実績がある。 産出量は少ないが千葉県銚子(白亜紀中期,約1億1千万年前)、福島県・茨城県の磐城地方の他、北九州地方、北海道、山口、長野、岐阜の各県などが数えられます。 

因みに、日本の秋田・新潟地方の石油ガス田の石油や天然ガスは、地質時代で言えば今から2,000万年から6,500万年前のいわゆる新生代第三紀の地層に賦存している事から、バルト海やドミニカの琥珀もその頃に生まれたものと言えます。

ドミニカ琥珀もメキシコ琥珀も約2,500万年前の日本のケヤキに似た琥珀の木の樹脂です。 白熱電球の下ではドミニカのブルーアンバーは黄色、メキシコのレインボー・アンバーは真紅色をしていますが、太陽光線や道路端の水銀灯或いは今流行のLEDの光で目が覚める様な青・緑の蛍光色で輝きます。 蛍光灯の光でも少し蛍光色を発します。 ドミニカもメキシコ琥珀も全て天然のままの、いわゆる熱処理をしない自然な琥珀です。 ドミニカでは資源保護の為手掘りでしか採掘出来ません、従って価格もお高いのが難点です。

ドミニカでは、現在も下の写真の様に、琥珀の木の子孫が生き永らえていますが、その樹脂は松脂の様にボロボロで琥珀は元よりコーパルにもならないとの事です。

琥珀の仲間でコーパルCopalと呼ぶ数百年?数百万年前の比較的若い時代で琥珀の木の樹脂の化石があります。 硬度が1.0?2.0で柔らかく、比重も1.03?1.08と軽く、150℃以下の熱で溶け、さらに アルコールや除光液に溶け、白く曇ります。 産地はコロンビア、ニュージランド、アフリカ、マダカスカル島、ドミニカなどです。 近年、このコーパルをオートクレーブ(特殊な圧力釜)の中で特殊な熱処理をして緑色の琥珀に仕上げ、カリビアン・ゴールデン・グリーン・アンバー(黄金緑色琥珀、商品名)と呼ばれています。

ミヤンマー(旧ビルマ)の琥珀はバーマイトBurmiteと呼ばれ、黄、茶、赤、紫、青色と多彩です。 時代は日本の久慈琥珀と同じ、約8000万年から1億1000万年前の白亜層から産出します。 中でもブルーアンバーはやや赤色或いは紫色掛かった青色です。

近年、インドネシアのスマトラ島でブルーアンバーが褐炭の石炭層の中で発見されました。 時代的には約2300万年前とのことで、青色の他に紫色、赤色、褐色など多彩です。 ドミニカ産のブルーアンバーに匹敵するか或いはそれ以上の光沢を持っています。 しかしながら、時代がやや若い性か、硬い割には粘着質で、研磨に苦労します。  

琥珀の生い立ち、気泡、色、について(私見)

琥珀は周知の通り、琥珀の木の樹脂が固まったものです。 しかし、地上で固まっただけでは、琥珀にはなりえません。 その樹脂が地下に埋没して、地中で重合(分子同志が結合する作用)により高分子化、酸化、酸化炭化水素化を経て、天然に合成樹脂化します。 例えば、前述の南米コロンビアのコーパルは数百年から数百万年の若いもので、十分琥珀化していません。

しかしながら、コーパルも、洪水等で海に流れ着き、土砂と一緒に埋没して、高温高圧の環境の中で育てられれば、何千万年後の何時の日か、晴れて、本物の琥珀に成長することでしょう。 でも、その頃の人類や動植物はどうなっている事でしょう。 地質鉱物学を学んだものとしては、コーパルこそが「琥珀の赤ん坊」だと考えています。 そして、前述のカリビアン・ゴールデン・グリーン・アンバーはオートクレーブ(特殊な圧力釜)と云う揺り籠の中で急成長させられた「成人」とも言えます。

琥珀の木の枝などが折れて、樹脂が流れ出す時に、空気が、或いは雨や露の水が一緒に取り込まれます。 虫や花や葉っぱも同じです。 そして、洪水などで海に運ばれます。 そこで土砂と一緒に海の底に埋積されて行きます。

例えば、一年に0.1mmの土砂が海底に積もるとしますと、3000万年(バルト琥珀は約3500年前の樹脂)で3000m沈む計算になります。
海面から3000mの地下では300気圧になります。 道路工事の削岩機が7気圧、蒸気機関車が16気圧位ですから物凄い圧力が掛かっていることになります。

地下の温度は、地上が15度の場合、平均地温勾配は約2.5?3℃/100mですから、3000mの地下では90-105度と計算されます。 火山地帯ではもっと高温になります。
琥珀の樹脂もこの様な環境で、分子の重合作用で、硬く丈夫なものに育って行くわけです。
その後、大陸移動説やプレートテクトニックス理論で知られる造山運動或いは地殻変動により、地表に戻って来て、それを現在採掘していることになります。

多くのバルト琥珀の中には、丸い円盤状のグリッターGlitter(キラキラ光るの意)が入っています。 琥珀の中の約3,500万年前の微小な空気の粒が、打上花火の様に膨張して開いた気泡です。 地下深く埋没して琥珀に変成する時、空気も一緒に圧縮された証拠です。
このグリッターをルーペで見ると、中心から周りに向かって放射線が見えます。 バルト琥珀(バルティック・アンバー)の典型ですが、ドミニカ琥珀、メキシコ琥珀にも時々、特に熱処理をしたカリビアン・ゴールデン・グリーン・アンバーには沢山入っています。
ドリルで琥珀に穴を開けるとき、このグリッターに到達すると、南極の氷がウイスキーに溶ける時の様に、パチンと音がして空気が飛び出してきます。

産地により琥珀の色は異なり、ロシアの飛び地のカリーニングラードやポーランド等のバルト海沿岸の琥珀は白、黄、茶、コニャック、黒色と様々です。 ドミニカには青や緑色、メキシコでは赤色、ミヤンマー(ビルマ)のバーマイトは深い赤色或いは青或いは紫色です。緑色の琥珀は南米コロンビアやマダカスカル島等のコーパルに熱処理を施したものです。

バルト産を含め琥珀は、本来、透明で濃い黄色の色が初期の新鮮な樹脂の色です。本来は透明ですが、この透明度の色合いは黄色から暗い赤色に変化し、赤色の琥珀も天然ではまれに産ます。 赤の色合いはオレンジ色から暗い黒に変化します。 この色は透明な琥珀を熱処理し、酸化させることでも人工的にも造られます。

バルト琥珀の中で「チェリー」と呼ばれている琥珀があります。 チェリー色琥珀は、ナチスに奪われたエカテリーナ宮殿の「琥珀の間」を復元するために、色々な色合いを出す必要に駆られて研究がなされた過程で、新たに生まれた色合いの一つだそうです。
琥珀は50年、100年と空気に晒されると表面が酸化して茶色くなります。 この現象を利用して、オートクレーブ(特殊な圧力釜)の中で、燃えない様に窒素ガスを満たし、高温高圧で処理しますと琥珀の表面が茶色く色づいてきます。 古代の深い地下の環境をお釜の中に再現する訳です。 処理する時間によって色の濃さを調整しますが、これは言い換えれば、琥珀の年齢をも加減出来ることになります。
この処理では表面のみが赤茶色く変色しますが、中は元のままですから削ると色が薄くなります。 バルト琥珀のチェリー色の琥珀は、天然でも存在しますが、殆ど熱処理で赤黒く焼いたものです。

バルト琥珀で、業界で、「グリーン」と呼ばれている琥珀は、全体を一旦特殊な圧力釜で黒く焦がし、片面だけを研磨したものを言います。 中の気泡が薄緑色に見えるのでこの名前が付けられました。

余談になりますが、琥珀は大きいので肉眼でも良く見えますが、ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、エメラルド等の小さな宝石をルーペで観察しますと、肉眼では見えなかった傷や割れ目、不純物があったりします。 これらの欠点を抑え、又色合いを良くするために、エンハンス(品質向上)と云いまして、加圧熱処理、着色、放射線の照射、油処理などの処理が普通に行われています。

お酒のブランデーのコニャック色(黄色)は最も一般的な色で琥珀の大部分を占めますが、乳白色琥珀(マットMatt,フランス語で泥の意味)は琥珀の中の空気の微粒子(気泡)や時には水の微粒子により不透明化し、黄色くなったものです。 乳白琥珀は、他社ではロイヤルアンバーと呼んでますが、私は古い琥珀職人ですから、この名称は使いたくありません。

空気の気泡は0.00007?0.02mmの大きさで、この気泡の大きさと密度で異なった色合いとなります。 元々バルト琥珀は黄色いですから、この細かな気泡の入り方により、黄色の濃さが変わります。 また気泡が小さく多く含まれますと白くなります。純白の琥珀は非常に特殊な存在です。

ロシアン・ピンクアンバーは、噂では、バルト琥珀を特殊な光線或いは放射能を照射して、美しい桃紅色(赤とオレンジ色の中間の色)に変化させたものです。 琥珀を構成する化学分子の配列を変え、光の散乱効果による変色をもたらせる様ですが、残念ながら製造方法は秘密の様です。

この他、琥珀は染色で色を付けることが出来ます。 ルビー或いは紅ショウガの様な赤色、サファイヤの様な青色、新緑の様な鮮やかな緑色などがありますが、これら琥珀を切断しますと、表面だけが染まっていることが分かります。 従って、削りますと色が落ちるので、研磨出来ません。 但し、コーパルを熱処理したグリーン色の琥珀は中も緑色ですから、多少色は薄くなりますが、研磨可能です。

天然に黒い琥珀は殆ど見出されていませんが、高温高圧のオートクレーブ(特殊な圧力釜)で48時間以上置くと、琥珀は黒くなります。

ジェットJetと呼ばれる黒色の宝飾品は英国の東海岸のウイットビーWhitbyという漁村で見つかりますが、これは化石化した樹脂ではなく、化石化した木、即ち、硅化木です。

琥珀はサラダ油で温めると柔らかくなり、形状が変えられます。 温めながら、油で表面を塗り、圧着して琥珀を接着することも出来、曇った琥珀は暖めた油の中で琥珀の中の気泡をオイルで充填することにより透明に出来るそうです。 しかし実際に実験してみましたが、琥珀が柔らかくなって変形するだけで、圧着も透明化もうまく出来ませんでした。 

この他、軟化点付近で琥珀の破片や削り粉を温めて、圧力を加えて成型すると安い琥珀(再生琥珀)が出来、アンブロイドAmbroid又は圧密琥珀 Pressed Amberと呼ばれ、大規模に作られています。 マーブル(大理石)と呼ばれる琥珀もこの一種です。



2020年6月1日更新

『アート琥珀』 自由が丘』

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著作・文責: 
田中俊二、琥珀職人、専門は地質鉱物学と地球物理学(鉄鉱石等の鉱物資源の探査・開発 及び 石油・天然ガスの物理探査)








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