琥珀　物知り帳

　　　　　　　　　　　　琥珀　物知り帳

琥珀(こはく)Ａｍｂｅｒ、植物性有機物　Ｃ４０Ｈ６４Ｏ４　数千万年前の松柏類の樹脂の化石。

非晶質、樹脂光沢、透明～半透明、白～赤～黄～緑～青～黒色。　光の屈折率１．５～１．６、硬度２．０～３．０（指の爪は硬度２．５）、比重は１．０４～１．１０で濃い食塩水に浮かぶ。

約１５０℃で軟化し、２００～３８０℃で溶ける。　発火点３７５℃。絹で摩擦すると負に帯電し、微粉を吸着する。　古くから飾石、お守り、薬、お香として用いられる。　透明度が高く、琥珀中に虫、木の葉、花などが封じ込まれたものは特に珍重される。　　産地は北欧バルト海沿岸地方、東ドイツ、イタリアのシシリー島、中米カリブ海のドミニカ、メキシコ、南米コロンビア、東アフリカ、シベリア、ミヤンマ（ビルマ）、中国、カリマンタンなど、日本では岩手県の久慈地方、千葉県銚子など。

琥珀の仲間でコーパル　Ｃｏｐａｌと呼ぶ数百年～数百万年前の比較的若い時代の化石が有る。　硬度が１．０～２．０で柔らかく、比重も１．０３～１．０８と軽く、１５０℃以下の熱で、或いはアルコールに溶ける。　シロアリ、蚊、蜂等の昆虫が捕らわれている事が多い。産地はコロンビア、ニュージランド、アフリカ、ドミニカなど。

この外、アンブロイド　Ａｍｂｒｏｉｄ又は圧密琥珀　Ｐｒｅｓｓ　Ａｍｂｅｒと呼ばれ、軟化点付近で圧力をかけて、琥珀の破片や削り粉を融合させたものがあり、パイプなどの工芸品に使用される。

歴史

琥珀はエジプト・ギリシャ・ローマ時代より装身具として、最も長く使用されて来た宝石の一つである。　北欧バルト海沿岸では石器時代までも遡ることが出来、北ヨーロッパから地中海方面を結ぶ通商道路は文化伝播の道でもあり、琥珀の道（アンバーロード）と呼ばれていた。　ギリシャではエレクトロン｢Elektron｣と名付けられていたが、この電気的特性の故に今日のエレクトリシティ｢Electricity｣なる用語が生まれている。　中国では漢字に示す通り、虎の魂が石に変化したものと信じられており、シルクロード以前の太古の交易品であった。

また、日本においても縄文時代の遺跡から多数の琥珀製玉類が出土しており、古墳時代より岩手県の久慈から奈良の都へ、いわゆる、琥珀の道・日本版アンバーロードを経て大量の琥珀が運ばれている。　久慈地方では「くんのこ、薫陸香」と言う名前が、現在も琥珀の方言として残っている。

遺跡から発見される琥珀は、単なる装身具、装飾品としてではなく、魔除けのためのお守り、護符、祭杞用玉、呪具、更には、儀式のための香料，線香そして各種医薬用として珍重されていたと考えられている。　今日の合成樹脂が発明されるまでは、電気の絶縁体や塗料として利用されていた。　この外、蚊いぶし、刀の鍔の色仕上げなどの用途もあげられる。　何れにしても、鉱物起源の無機質の宝石、或は珊瑚、象牙、真珠、べっ甲が動物起源であるのに対し、琥珀は植物起源とする唯一の有機質の宝飾用素材である。

国内外の数々の逸話や古文書によると、護符としては幸福を授かり、外敵から守られ、首輪に用いて咽喉病、粉末は喘息・歯痛・神経痛・リューマチ、利尿に特効ありとされ、、その電気的特性により冷え性にも効くとされている。　西欧では「１１月の誕生石」としている。北欧では１０年目を「琥珀婚」と呼ぶ習わしがあり、また想いを寄せる人に琥珀を贈ると愛が実ると言い伝えられている。　特にその首飾りは長寿を保証するとして婚礼の贈物とされ、多くの旧家で先祖代々伝えられてきたものも多い。　昨今、琥珀商や工場では、琥珀の倉庫に多くの虫や小動物が集まって来ると言われ、人間には感知出来ない何らかの効能があるのかも知れない。

近年、最も有名な史実は１７０１年にプロシャのフリードリッヒＩ世が１０年を掛けて製作させた「琥珀の部屋」がある。　後年、贈物としてロシアのピヨトール大帝に譲られ、ロシアのサンクト・ペテルスブルグの旧冬宮内に設置、次いでツァールスコエ・セロのエカテリーナ宮殿に移設された。　しかしながら、第二次世界大戦にドイツ占領軍に押収され、琥珀の壁面パネルと芸術的琥珀工芸品は共々ドイツのケーニヒスベルグ城へと移され、以来その行方は不明となっている。一説には１９４１年のドイツマルクで２億の価値があったと伝えられ、その見事さはいかばかりであったかと思わずにいられない。１９９５年小職が訪れた時には、ロシアは残された写真を基に、レプリカを再建している最中で、僅か約1ｍ四方が出来上がっていただけであった。　ソ連崩壊後のことでもあり金欠らしく、寄付金箱があり、１００ドルを寄進。　現在完成し「琥珀の間」として公開中であるが未だ再訪の機会に恵まれない。

名前

琥珀は古代より「幸福の石」、「太陽の石」、「人魚の涙」等と呼ばれていたが、

学名はその性状により、Succinite, Glessite, Retiniteなどと名付けられている｡

ここで各国の名前を列挙してみる：
      日本           コハク、クンノコ     琥珀、薫陸香
      中国           クォーパ              琥珀           虎の魂の石
      ギリシャ       エレクルトン         ｅｌｅｋｒｔｒｏｎ    帯電する石
      ローマ        エレクトラム          ｅｌｅｃｔｒｕｍ
      英語           アンバー             ａｍｂｅｒ         香気を放つ石
      フランス       アンプル             ａｍｂｒｅ
      イタリア       アンブラ              ａｍｂｒａ
      スペイン       アンバー            ａｍｂａｒ
      アラブ        アンペア              ａｍｐｅｒｅ
      ドイツ        バーンシュタイン    ｂｅｒｎｓｔｅｉｎ    燃える石
      ペルシャ       カペラ                ｃａｐｅｌｌａ
      ロシア        ヤンターリ            ｙａｎｔａｒ

産地

太古に松柏科樹木の繁茂していた地域ならばどこでも産出すると言える。

この中でも特に有名な産地は北欧バルト海沿岸地方(約３～４千万年前)、中米カリブ海のドミニカ(２～４千万年前)であり、この外産出量は少ないが発見を見たところは、メキシコ、コロンビア、カナダ、アメリカ、アラスカ、ルーマニア、ハンガリー、チェコスロバキヤ、ポーランド、ドイツ、フランス、イタリアのシシリー島（枯渇）、スイス（三畳紀、約２億年前）、ヨルダン（ジュラ紀、約１億６千万年前）、レバノン(約１億２千５百万年前)、オーストラリア（白亜紀前期、約１億１千万年前）、シベリア、サハリン、中国、ビルマ（現ミヤンマ）、インド、カリマンタン、ジャワ、スマトラ、ルソン島、アフリカと列挙すれば限りがない。

日本で有名なのは岩手県の久慈地方(第三紀、約３千万年前？～白亜紀後期、約８千万年前)で産出量も多く生産実績がある。　産出量は少ないが千葉県銚子(白亜紀中期，約１億１千万年前)、福島県・茨城県の磐城地方の他、北九州地方、北海道、山口、長野、岐阜の各県などが数えられる。

因みに、日本の秋田・新潟地方の石油ガス田の石油や天然ガスは、地質時代で言えば今から２，０００万年から６，５００万年前のいわゆる新生代第三紀の地層に賦存している事から、バルト海やドミニカの琥珀もその頃に生まれたものと言える。

色と性状

琥珀の色は虹の七色の様に千差万別である。　人の目が判別出来る数だけの色があると言わねばならない。

通常の琥珀は透明又は半透明であり、トランスパレント Transparentと呼ばれ、黄色琥珀を最も多く産出する。　乳白色或は象牙色の琥珀はマットMattと呼ばれ、無数の細微な気泡を包含しているため全体として乳白色に見える。　石炭の様な漆黒色琥珀はガガットGagat或はジェットJetと呼ばれ、炭化した琥珀であり、ビクトリア女王以来喪中の際の装飾品と使用されて来ている。

欧米の業界では色によって、シャンペン(淡黄)、イエロー（黄色）、コニャック（褐色）、チェリー（暗赤色）、コーヒー又はココア色等と呼ぶことが多い。

この中でもドミニカ琥珀のブルーアンバー（青色）、グリーンアンバー（緑色）或は、レッドアンバー（赤色）は産出量も極めて少なく希少価値がある。　ブルーアンバーは太陽光線にかざすとそれまで茶色に見えていたものが、突然、胸が踊る様な素晴らしい青色に輝き始める。　自然太陽光線と同じ分光（スペクトラム）分布を持つ宝石鑑定用の人工太陽灯や街路の夜間照明用の水銀灯は勿論、青のスペクトルを多く放出するハロゲンランプや蛍光灯の光でも青く輝くが、紫外線ライトを当てると、トルコ石に似た目の覚めるような明るい青緑色を呈する。従って逆の場合、即ち、青の光を殆ど出さない白熱電球では青く光らない。

太陽の国、メキシコのレッドアンバー（赤色）も産出量も極めて少なく希少価値がある。なかでも、レインボーアンバー（虹色）は更に希少で、太陽光線にかざすとそれまでの赤色が緑色に変化し、時には青色を混じえた目の醒めるような輝きを見せる。

バルト琥珀に特有の神秘的に輝く円盤状の気泡をグリッター Glitterと称し、永遠の幸せを呼び寄せるとも言われている。　このグリッターの特徴は、円盤の中心より放射状に伸びる条痕で、本物の琥珀の証拠でもある。　

最近市場に現れた南米コロンビアのカリビアン・ゴールデン・グリンー・ンアンバー（黄金緑色、商品名）は非常に透明な薄緑色又は薄黄緑色を呈し、グリッターを含有するものも多い。　硬度や比重はバルト琥珀に近い。

琥珀の中に捕獲された含有物Inclusionsには、グリッター以外にいわゆる虫入り琥珀の昆虫類、やもり、とかげ、蛙、鳥の羽毛、木の葉、木の茎・枝・皮、苔、花、果実などが最たるものであるが、中には太古の水や空気を包含する琥珀もあり、当時の自然環境の研究に利用出来る。一種のタイムカプセルといえる。

映画「ジュラシック・パーク」で一躍有名になった虫入り琥珀は太古の遺伝子、ＤＮＡの研究に欠かせないものではある。　しかし残念ながら、映画の中の琥珀はドミニカ産の新生代第三紀のもので、中生代ジュラ・白亜紀の恐竜の時代と異なり、理論的には無理がある。　但し、この卓抜したアイデアは昨今のバイオテックの進歩から推察しても、将来実現しないとは言い切れない。　恐竜時代の遺伝子を包含する琥珀を今からでも集めても遅くはないと思われるが、如何？

色と性状の項の終わりに当たり、何故かブルーアンバーには虫入りの琥珀が殆どなく、興味が尽きないが、今は自然界の妙味を想わせるとのみ申し添える。

その他

最近になって、人工の琥珀まがいの装飾品、虫入り琥珀などの偽琥珀が散見される。

真偽の見分け方として、本物は次の特徴があり、慣れればその軽やかさや暖かみ、色や光沢、グリッター等の内包物により見極めることが出来る。

　比重（飽和食塩水に浮く）

　芳香（燃やした時に松脂に似た匂い、赤熱した針を刺す）

　玻離光沢（割れ口が樹脂光沢、貝殻状裂痕）

　脆弱性（削る時の琥珀独特の脆さ）

　熱伝導度（暖かい感触、舌でなめてみる）

　溶剤反応（アルコール、エ－テル等で軟化しない）

　グリッター（バルト琥珀に特有の神秘的に輝く放射状の条痕を持つ円盤状の気泡）

　赤外・紫外線反応
（特にドミニカのブルーアンバーやメキシコのレインボー・アンバーとレッド・アンバーは紫外線で青緑色に輝く）。　バルト海琥珀はこうした反応を示さない。

　偏光フィルター反応（現在研究中）

勿論科学的には、地質学や考古学で使われる放射性同位元素或はフィッショントラック法による年代測定も考えられるが、未だ絶対的とは言えない。　矢張り信用の出来る琥珀専門店から求めることが安全の第一と思われる。

（保存方法）

悠久のロマンとファンタジィを秘め、時を超えて神秘的に輝き続ける魅惑の琥珀も、本来は松脂の様な樹脂ですから簡単に燃えます。

琥珀は地下に何千万年も眠っていた位ですから酸やアルカリに対して大変丈夫で、汗や脂をとる為に石鹸水で洗っても大丈夫です。そして綺麗な柔らかい布やタオルでふいて下さい。但し、若い琥珀のコーパルはアルコールや除光液に溶け、白く曇ります。

琥珀の弱点は、人間の皮膚と同じで、乾燥に弱いことです。直射日光に何日も長時間晒しますと、表面に小さなひび割れが発生することがあります。　特にドミニカの虫入り琥珀は、何年も使用しないときは、ほんの少し水で湿らせて、ポリ袋に入れて置いた方が良いと思います。

ただし、冬場に気温が氷点下になる時は、琥珀の中の割れ目に水が入っていると、水が凍って膨張し、琥珀を割ってしまいますので十分気を付けることが肝要です。また、琥珀の硬さは指の爪より少し硬い位ですので、砂などの硬いもので傷つきますから、気を付けて下さい。傷付いた琥珀は再研磨で元の様になりますので、ご安心下さい。　もし軽い傷が付いた場合には、＃１０００番程度のサンドペーパーで傷を取り、その後自動車のワックスで磨きますと簡単に直ります。

ペンダント・トップのバチカンなど、Ｋ１８或いはシルバーのパーツの磨きには通常、街中の宝飾品店などでも買えると思いますが、商品名：ポリマール（研磨用つや出し布）を使います。　但し、琥珀やメガネは磨かないで下さい、曇ってしまい、後でバフ（仕上げの研磨）を掛ける必要が出てきます。　金や銀メッキなどでは、メッキがはがれて仕舞いますので要注意です。

（参考文献）

ブリタニカ国際大百科事典

｢琥珀誌｣ 1988､田村栄一郎著

｢Life in Amber｣､ 1992､ George O. Poinar ｶﾘﾌｫﾙﾆｱ大学ﾊﾞｰｸﾚｰ校教授著

｢日本の琥珀｣ 1993､ Schlee, D.著, 上田恭一郎訳

「DOMINICAN ANBER」 Rafael Jie Chiang Wu著

２０２０年６月８日更新

『アート琥珀』自由が丘

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著作・文責：

田中俊二、早稲田大学第一理工学部鉱山学科出身の山師です。　定年後は琥珀職人に変身。　現役時代の専門は地質鉱物学と地球物理学（東南アジアでの鉄鉱石・錫・銅・アンチモニー等の鉱物資源の探査・開発　及び　国内外の石油・天然ガスの物理探査）